SILENT EYE
最終話 <そして夜明けのサイレント・アイ>


『汝は………何故死して尚、斯様にも生を望むか……』

頭の奥に直接語りかけてくる声に、彼女の意識は覚醒した。

生を……望んでる? 
この、私が?

目を開けてみるとそこには、見上げんばかりの巨大な鷲と、蜘蛛の怪物。

―――――あなた達は……

『我が名はファントム。煉獄の番人。』

『我が名はグリフォン。ともにすでに滅ぼされし高位の悪魔よ。』

彼らは人ならざる口元で、しかし確かに自らへの嘲笑らしいものを浮かべた。

―――――私に……何の用? あなた達と同じく、私ももう、死んだのよ?

そう、リザは死んだ。殺された。
あの探偵、ステン・バルバロッサによって。

べつに悔しいとも思わなかった。
ファウストのあの狂気に染まった目を見て、彼女は確信してしまったから。
もう、彼の心は自分に、いや、それを言うならもう人間という種には、絶対に傾かないということを。

彼女の存在意義は、彼だけだった。
なぜだろう、理由は分からない。
ただ、彼が愛おしく、彼の側にいたかった、それだけのことだった。

『そう、だが汝は、未だその想いを、捨てきれていないのではないか?』

……当たり前じゃない。

彼女は思った。

悪魔なんてふざけたものに彼をとられて、そう簡単にあきらめきれるわけがない。
そう思うと徐々に、心の奥から忘れていた感情がわき出してきた。

彼を、私だけのものにしたい。
私を裏切った彼が、憎い。

あんなに尽くしたのに、あんなに愛していたのに、私に向けられた彼の言葉は、すべてあの悪魔への執着から生まれる副産物に過ぎなかったのか?

憎い……憎い、憎い、憎い!!

『どうだ、汝が望むのなら、今一度機会をやろう。』

―――――機会?

『そうだ。我らと手を組み、自らの意志を形にする機会だ。』

『我らとてじき消え去るさだめ、その前に我らが矜持を今一度、神とやらに示したい。』

『汝の身体はすでに滅んだ。だが我らの力を持ってすれば、一時的にだがその滅びを退けることができる。』

『それこそが神への冒涜。我らの誇り。』

『さあ選べ。汝は神を捨てるか、否か?』

リザは不敵な笑みを浮かべた。
最後の最後でとんでもない運命が待っていたものだ。

ここで神を捨てれば、刹那の生と引き替えに、永劫の苦痛を味わうことになるだろう。
だが、それがどうしたというのだ。

私が生きるのは、今。

今この瞬間のこの世の生に、勝るものはない。

―――――いいでしょう、契約よ。





「お……おお、メフィスト…!
 ああ、願わくば、時よ止まれ………お前は美しい!!」

まるで熱に浮かされたかのように、ファウストはダンテ達のことも忘れ、フラフラとその不気味な生物に向かって歩いてゆく。

「あれは?」

ダンテに問うトリッシュ。

「メフィストがしびれをきらしてんのさ。
 召還陣開きっぱなしのくせに、なかなか望みのもんが手に入らんからな。」

その言葉の通り、地面から這い出すメフィストは、怨嗟の叫びを上げているようにも見える。
或いは、悪魔を侮った人間への弾劾か。

どちらにせよ、あまり穏やかではない状況だった。
生白い肌が、ぐぐっとこちらに伸び上がってくる。

狙いはダンテではなく、召喚したファウストのようだった。

「メフィスト! メフィスト!
 僕はこの日を待っていた!

 この圧倒的な力を!
 強大な、そう、完全なる破壊を!!

 さあ、ともにこの世界を、愚かなる人の世界を破壊しよう!  そしてそこに、僕らの理想郷を………」

ズンッと言う重い振動とともに、彼の言葉は断ち切られた。
メフィストの顔の部分がグロテスクにのび、ファウストはその口にくわえられ、屠られていた。

「愚かな………」

ダンテが呟く。

だが当のファウストはまったく堪えていなかった。
上半身だけになった身体で、なおもわめき続ける。

「そうさ!
 僕らは一つになるんだ! そして新たなる世界をづグゴガゲボァ」

そこで完全に飲み込まれ、ファウストの口上は終わりを告げた。
あとに残るのは、巨大な生白い、破壊の象徴のような悪魔のみ。

「くそっ! ……ロスがあれじゃ街の人間は人っ子一人生きのこれねぇな。」

ダンテが毒づく。

「ダンテ!」

ステンとフィーが駆けてきた。 どうやら二人とも無事だったらしい。
ダンテは顔に出さないよう、心だけで安堵のため息をついた。

「ダンテ、あれは……」

ステンがメフィストの巨体を見上げる。

「ああ、あれがファウストの言っていた、メフィストフェレス………さっさと魔界に追い返さねぇと、こっちの世界はえらいことになるぜ。」

「ったく、とんでもねぇもんに魅入られたもんだ、あの男。」

ステンが吐き捨てる。

「どうする、ゼロ距離射撃でもしてみるか」

「そうだな、俺のフルパワーで奴をメッタ斬りにでも……退いてろ!!」

突如ダンテはステンを突き飛ばすと、剣の柄に手をかける。
神速の速さで突き出されたダンテの剣に貫かれたのは……

「ばかな!! リザ!?」

ステンの顔が驚愕に染まる。
剣に貫かれて尚、不敵な笑みを浮かべているそいつは、間違いなくリザ・スタンフォード。

「お前……俺が殺したはずじゃ!?」

ふふん、と鼻を鳴らすリザ。

「何ででしょうね……あんなにあの人が憎かったのに……。
 やっぱり私は最後まで、あの人の剣であり、盾でありたかった……」

そう言うと、ダンテの剣をグッと握り、

「さようなら、この世の人間達。私は……この生に感謝を。」

リザの身体から、血の色の雷撃と炎が吹き出す。
それらは剣を伝わり、ダンテの身体に直接ダメージを与える。

「う、ぐぁぁぁぁああっ!」

ダンテはたまらず剣を引く。
支えを失ったリザは、そのままつんのめるようにして倒れた。

その手が、足が、灰となって崩れ落ちる。
まっとうな生き物であることを捨てた者の悲しい最後だったが、 彼女の口に浮かんだ微笑みは、その美貌が灰となって崩れ落ちるまで、消えることは、なかった。





「ダンテ、大丈夫?」

トリッシュが心配そうにダンテの顔をのぞき込む。
なんだかんだ言ってやはり彼が心配なのだ。

「ああ、何とか。だが……まさか滅ぼした悪魔にこんなところで邪魔されるとは。」

ダンテは自嘲的な笑みを浮かべた。
声から察するに、ダンテのダメージは意外と深いようだ。

「そういや、エンツォはどうした。姿が見えないが……」

「彼なら、今ヘリの修理中よ。」

「そうか……なら大丈夫だな。」

ダンテは白い方の銃を抜き、薬室を確かめる。

「よし、マレット島と同じ手で行く。」

ダンテはスライドを離す。 バシャン、という音とともに、薬室が閉鎖された。

「俺とトリッシュの魔力を、弾丸を媒介にして直接奴にぶつける。
 いささか遠いが、奴の眉間のど真ん中にぶつければ、魔界に追い返すぐらいは可能だろう。」

「確実性に欠けるわね。」

ダンテの意見に、フィーが割り込んだ。

「ここからじゃ遠すぎるわ。悪魔の動体視力を持ってすれば、弾丸なんて見切るのはわけない。
 腕でブロックされたら、あなたに2発目を撃つ力なんて残ってないんじゃない?

 ……ま、メフィストの真下で気を逸らす役目がいれば、話は別だけど。 ねぇ、ステン?」

そう言ってフィーは、意味ありげな視線を俺にとばす。 ああ、なるほど。

「………そうだな。
 ところでダンテ、今からちょっとフィーとロスの街で食事でもと思ってるんだが……どうかな?」

ダンテはあからさまに乗り気じゃない顔をしていた。

「お前ら正気か?
 メフィストが帰っちまえば、奴の媒介となっていた街はその意味を失って、お前らの頭の上に降りかかるんだぞ?」

らしくないな、ダンテ。俺達の心配なんて。
それしか方法がないことは、分かってるくせに。

「ダンテ、トリッシュ、あんたらは俺達の倍は悪魔の血が濃いんだ。
 あんた達が最後の望みなんだよ。
 そーゆーワケで、よろしく。」

「私たちのことは心配しないで。  勝算がない賭なんて、私はしないわ。」

そういってフィーは、黒い眼帯を取り払った。
まっすぐに澄んだ紅の瞳が、ダンテを見据える。 深いため息のあと、ダンテは右手を挙げた。

行って来る、そう言って俺達は走り出した。

さぁ、最後の仕上げだ。





右へ、左へ、華麗なステップで、はるか頭上から降ってくる超ヘビー級のパンチをかわしながら、俺たちはロスの夜道を突き進んでいた。

体は風のように軽く、すべてがスローに見える。
気持ちいい。なんて速いんだ!

自然に口元に、笑みが浮かぶ。

隣を走るフィーも、心なしか生き生きとしている。
黒髪をなびかせて、しなやかに躍動する肢体は、ツバメを思わせた。

「ステン!」

フィーがあごでさしたのは、左手前方、3階建てのビルだった。
あの程度ならひとっとびで屋上までいける。

近くに高いビルもない。 あの屋上からなら、メフィストの全身を狙えそうだった。

「よし!」

俺は路地に入ると、地面を蹴った。
狭い路地は、三角とびに絶好のロケーションだった。
レンガの壁を蹴った反動で、一段高い非常階段の手すりへ。
そこから隣のビルの雨樋に移り、一気に屋上に手を掛ける。

開けた視界のその先には、改めて巨大なメフィストの胴。
遅れてフィーも、俺の隣に並ぶ。 二人して、その悪魔の巨大さに見とれてしまう。

俺は腰からアナコンダを抜くと、ストッパーをはずし、シリンダーをスイングアウトした。
ポケットには、バラの.44マグナムが6発。 一発一発、ゆっくりと装填していく。

自身が改造されても、俺が悪魔になっても、不思議といつでもこの銃は俺の指にしっかりと溶け込むように馴染んだ。
人間の相棒もできたけど、こいつだけは一生手放せそうにない。
よしんば俺が瓦礫に埋もれたとしても、こいつにだけは最後まで、俺の牙でいてほしい。

そんな感傷とともに、スナップをきかせて弾倉を定位置に戻す。
威勢のいい金属音とともに、アナコンダは発射準備を完了する。

「私は左手、あなたは右手。しっかり狙って。」

俺と同様ズヴェルボイに装填を終えたフィーが言う。

「OK、6発全弾ぶち込んで、引きちぎってやろうぜ!」

ダンテの警告を、忘れたわけでもない。
こいつが滅べば、瓦礫は俺たちの頭の上に、シャワーとなって降り注ぐ。
特に策があるわけでもない。

でも、それでも、何とかなる。
いつもベネリを握っていた、フィーの右手が開いていた。
俺は左手で、そいつを握る。

「フィー!」

十字に重なるレティクルに、奴の右手の関節を据える。

「何?」

隣から返事。手がぎゅっと握り返してくる。 その暖かさを感じつつ、右手は冷たいハンマーを上げる。

「その……、赤い目、綺麗だと思う。少なくとも俺は、大好きだから。」

「………ありがと」

俺たちは引き金を、絞った。





「ああいう奴らがいるから、この世は面白い。」

ダンテはつぶやいた。
トリッシュに肩を貸してもらって、それでも最後は、二本の足で地面を踏みしめ、悠然と構える。

2丁の銃は、クロスさせている。
右手が左を、左手が右手を、互いに支えあって抜群の安定感がえられる、ダンテ流の2丁拳銃のいわば奥義だった。

「そうね。ああいうイレギュラーは、見ていて昔を思い出すわ。」

トリッシュはやわらかい笑みをダンテに返す。
その笑みはやはり幼いころの記憶の中の母親とそっくりで、ダンテは自然とリラックスできた。

(結局、俺はこのトリッシュが好きなのか、ただ単にマザコンなのか……)

いまだに答えは出ていなかったが、そんなことは今どうでもよかった。
彼女がそばにいてくれる。 そのことが何より大切だった。

心を入れ替え、眼前の巨体を睨みつける。
クリアになった意識が、広角に拡散した状態から徐々に一点へと集中してゆく。

カメラのズームのように視界は狭窄してゆき、中心部はよりいっそう鮮明になる。
その視界の下方から滾々と感じられるのは、湧き立つ闘志と前へと進む強烈なエナジーだ。

(ステン、フィー……)

虚勢が実力を伴うようになったステン。
何かが吹っ切れたような顔をしたフィー。

それらはまるで化学反応のようで、ダンテにはそれが面白くてたまらなかった。

人は、世界は、日々とともに変容する。 それが面白くてたまらない。
変容の結果幸せになれる人間はごく僅かで、でもだからこそこの世はいつも大博打で、だからギャンブルは面白い。

ダンテの体に、静かにエネルギーが満ちてゆく。
赤黒いオーラが、ダンテの本来の力、魔剣士スパーダの力が、まがまがしい波動とともに顕現する。
そこにトリッシュの金色のオーラが交じり合う。

人と人とが交わるとき、そこに大きなパワーが生まれる。
それはプラスにせよマイナスにせよ、時に大きく、時に小さく、この世界に影響する。

それは、自我のみの存在である悪魔にとって、とても興味深いことで、 案外悪魔が人間界にきたがるのは、その辺の要素が大きいのではないか、などと思う。
6発の銃声とともに、メフィストの両手が寸断される。

テーブルの準備はできた。

さあ、トリガーという名のサイを振ろう。

(願わくば、この大当たりがすべての人に……)


「ジャックポット!!」


紅と黄金のリースを引いて、破魔の弾丸が飛翔する。
白い悪魔の眉間の中心、そのど真ん中にヒットした弾丸は、一撃でその悪魔を、在るべきところへ送り返す。
長い尾を引く悲鳴とともに、悪魔の体は失われ、瓦礫の崩れる大音声が終わると、 夜明け前のロスに、静寂が戻ってきた。





「……………ん」

薄目を開けると、あたりは暗かった。
なんとなく、背中が重い。

首をひねって上を見ると、空は真っ黒い何かに覆われていた。
いや、それは真っ黒い翼だった。
自分の背中が重いのは、その巨大な翼のせいだと、俺はようやく理解した。

その羽は所々破れ、傷ついていたが、俺のほうには傷ひとつない。
最期まで悪魔の血に、命を守られたらしい。

理解し、体が人間の感覚を取り戻したとたんに、その黒い翼は霧となって消えた。
消えた空間には、澄んだ群青色の空。
その向こうに、ほんのりとオレンジに染まる山々があった。

寝ぼけたような感覚の肌に、冷たい空気が心地よい。

「う………ん……」

顔の下から聞こえた声に、どきりとする。
すぐそこに、フィーの寝顔。
俺は今、フィーに覆いかぶさるように四つんばいになっていた。

(えー…と、)

なんだか後ろめたい気持ちで、しかし俺はその寝顔に見入っていた。
さっきまで血なまぐさい戦闘の渦中にいたとは思えない、無垢な寝顔だった。

「あ……」

突然目を開けたフィーと、目が合う。

……まずい。

俺が気まずくなって体を起こそうとすると、その前にすばやく、フィーの腕が俺の首に巻きついた。
抵抗する間も与えられず、俺はフィーの上に倒れこんでいた。

暖かい。そう思った。

「ありがとう」

耳元で、フィーがささやく。

「私も、あなたのそばにいたいと、思っていたから。」

押し付けられた胸から、彼女の早くなった鼓動が聞こえてくる。
悪魔の少女は、少しかすれた声で。

「好き。」

「こちらこそ、ありがとう。」

俺は、腕を突っ張ってフィーから離れた。
このままでは重かろう。 離れた二人の間に、オレンジ色の光が差し込む。

「うわ…………」

朝日だった。

巨大で、あまりにも力強い朝日が、刻一刻とその光を強めながら、昇ってきていた。
すべてをオレンジ色に染めつつ、夜の海から這い出してくる。

「すごい……」

フィーが呆けたように、首をひねって朝日を眺めている。

「太陽って……こんなにも綺麗で………力強くて……。
 私の頭の上にいつもあったはずなのに、……ぜんぜん、気づかなかった…」

山々はオレンジ色に染まり、俺たちも、瓦礫の山も、オレンジの海にきらきらと浮かんでいた。

俺は圧倒された。

俺たちは、あまりに小さく、弱い。
神の作り出した摂理の中で、俺たちは肩を寄せ合って、姑息な戦いを、挑み続けるしかない。

ぎゅ、と袖が握られた。

下を向くと、フィーと視線が絡み合う。
彼女のほほには、ほのかに涙の跡。

「バッカ、なに泣いてんだよ。」

彼女は少しほほを赤らめ、首を振る。
そして今気づいたかのように指で涙をぬぐい、照れたように笑った。

「一緒に、いてくれるよね。」

その言葉に、俺は頷く。
フィーはうれしそうに目を細め、そしてそのまま目を閉じた。

この壮大なオレンジの平原で、俺たちはただ、肩を寄せ合い、唇を寄せ合い、 神の不条理と、いっぱいいっぱいで戦っていく。
だって、俺たちは悪魔だから。


静かな朝日は、だがそのときだけは、俺たちを祝福しているように、思えた。






エピローグ
<WE DO ALL THING IF WE CAN>




しばらく心地よい暖かさを味わっていたが、それも突然にして断ち切られた。

遠くから小さなヘリの音が聞こえるや否や、俺は激しく肩を突き飛ばされ、地面にしりもちをついた。

「うわっ! こら、なにすんだよ!!」

俺の抗議もどこ吹く風、俺を突き飛ばしたフィーはさっさと立ち上がり、パンパンと服のほこりをはたいていた。

「お迎えが来たみたいだから。」

そういってこちらを見る。
そ知らぬ顔を装ってはいるが、眼帯のないその目からは、彼女のあわてっぷりがそれなりに伝わってきた。
俺は思わずほほを緩めて……

ゴスッ!!

後頭部への衝撃とともに地面に顔面をめり込ませた。

「何がおかしいッ!!」

俺を殴ったズヴェルボイはわなわなと震えていた。
重い銃床で殴られたら、一般人なら昏倒する。
っていうかフィー、なんか銃床に赤いのついてるよ、赤いの。

徐々に近づいてくる、なんだか飛行のおぼつかないブラックホークを眺めながら、俺たちは瓦礫の山の上に立っていた。

「これから、どうするつもり?」

フィーが聞く。

「そうだな…。俺の家もたぶん残っちゃいないだろうし……  いっそロスを出ちまうか?」

「それもいいわね…」

ブラックホークの巻き起こす風が、フィーの長い黒髪をなびかせていた。
ダンテにトリッシュ、それにエンツォ。
みな無事だったようだ。

ダンテが俺たちのすぐ横に降りてくる。

「よう、生き残ったな、悪運野郎。」

ダンテがうれしげに肩をたたく。
傷はもう気にならないようだ。相変わらずのタフさである。

「ロスは政府が何とかするだろう。ここでおきたことは高く売れるぜ」

エンツォはそういいながら、もう金勘定をはじめている。
彼は今夜のことを目撃した唯一の情報屋なのだから無理もない。
ガセだと思われて袋叩きにされないことを祈るのみである。

「いい加減面倒ごとはこりごりだわ。」

トリッシュはやれやれと首を振る。 何せ今回は収入なしだ。
結局依頼主はただの駒で、首謀者は死んでしまったのだから。

「いい風が吹く」

ダンテは朝日に向かって伸びをする。

「ダンテ、俺たち、旅に出ようと思う。」
そう言うとダンテは笑って、

「いいじゃねぇか。好きに行けよ。  お前たちがいいと思うほうに進めばいい。
 何せ自由なんだ。

 お前たちはもう、過去にも、今にも、神にだって縛られる必要はない。」

そう言って半魔の剣士は、俺たちに背を向ける。

「さぁ、俺たちは帰って商売の続きだ。誰かさんがただ働きさせてくれたからな。
 何かあったときには、Devil Never Cryをよろしく!

 あと、これは餞別だ。とっとけ!」

ダンテが投げてよこしたのは、黒い帯状の布。
フィーの眼帯だった。

「さぁテイクオフだエンツォ! うちに帰ったら、パーっといこうぜパーッと!!」

「ダンテ、あなたお金はあるの!?」

「細かいことをいちいちうるさいんだよ! なんとかなるって!」

そんなことをいいながら飛び去っていくヘリを眺めながら、しばらくボーっとしていたが、俺たちはふとわれに帰って、顔を見合わせた。

「いこうか。」

「うん!」

それは、俺が始めてみるフィーの、純粋な、ほんとにプラスの意志だけでできた笑顔だった。
俺も笑って、前を向く。

世界は大きく残酷だけど、それでも俺たちはそれに立ち向かっていこうと思う。

隣にいるのは、いつだって戦友だ。

頼れる相棒は前を向き、静かに地平線を眺めている。

この果てのない戦いの中で俺たちは、お互いを必要としているから。


ともに最初の一歩目を、瓦礫の山から踏み出した。


SILENT EYE


あとがき

如何でしたでしょうか。僕の処女作、サイレントアイ。
ネタを明かしてしまうと、この話はデビルメイクライの二次小説にして、PCゲーム「ファントム」とライトノベル「灼眼のシャナ」「9S」に対するオマージュでもあります。
なんだかつぎはぎな感じですが、結果的に僕の書きたい話の集大成みたいになったので、書いた当時はかなりの自信作です。
まぁ、未来にどうなるかはわかりませんが。

探偵の話は大好きなのですが、実は松田優作はよくは見てません。ユーサクファンの人、ごめんなさい。
ああ、そういえば書き始めた当初はミステリーにしようとか目論んでいたんだっけ。忘れてた。

敵が悪魔なので、このお話に出てくる銃はみんな大口径です。
フィーがレッドホークとベネリを使うのは一番最初から決まっていましたが、ステンが出てきてさあどうしようと(笑)
結局オリジナリティを求めてコルト・アナコンダになりましたが、今思うともう少し小さな銃でもよかったかも。探偵だしねぇ。

以上。駄文失礼。


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