Yu-Mai

第一話 いらっしゃいませノーマルな世界へ






雪山の見える旅館の食堂。
その真ん中の辺りの席で、少女はパクパクと豪華な食事を小さな口に運ぶ。
『一心不乱』と言うよりも『一生懸命』という言葉が似合うであろう可愛らしい少女の食事風景に、周りに居た旅行客の大半は少女の食事風景を和やかな目で見つめていた。
じき、少女は手に持っていたスプーンとフォークをテーブルのお皿の上に置き、ナプキンでゴシゴシと口を拭くと、

「……あ〜美味しかった♪」
((あ〜可愛い♪))
(………………あ〜……馬鹿か?)

声に出てきそうな旅行客の思いを一瞥し、その少女の隣で座っている俺は思った。



人生とは不思議だ……神様、別に俺がこんな経験したからって、世界の平和を護るわけでもないし、日本の経済を立て直せるわけでもないし、自然災害を察知はおろか防ぐことすら出来ないし、病気の母(なんて居ないけど)を治療できるわけでもない…………要するに経験する意味が無い。


それでも…………それでも神様?


もし俺が………この幸せな時間を………永遠に続けて欲しいと願えるのなら…………


あなたは叶えてくれますか?



――――――――――――――――――――――――




まずは自己紹介だ。
俺の名前は北条院 勇太郎(ほうじょういん ゆうたろう)19歳。ジーパンにトレーナー。その上に赤いちゃんちゃんこを羽織った、俗に言う苦学生スタイルだ。
無駄に物凄く偉そうな名字の割に、学力は中の下。そのくせに早稲田なんかに受験したもんだから、当然受かること無く浪人生活真っ最中!
現在は親の仕送りを貰い、四畳半のボロアパートで早稲田へ再挑戦するため受験勉強の日々を送っている。

…………名ばかりだけどね。


「………よし。Enterっと」

デスクトップ型のパソの前に座り、掲示板に書き込みをしてエンターボタンを押す。
現在俺がお世話になっているホームページは、ゲームの批評をする書き込み系のサイトだ。
その中でも俺の批評は、的確で評判が良いらしく、調子に乗ってほぼ毎日通っている。

書き込みが終わり、一息吐くと、パソにポストペット(つまりメール)が来ていることに気づく。
少々違法にプログラムされた顔文字(こんなの→( ̄ロ ̄))キャラクターであることから、チャット仲間の自称凄腕ハッカー『ナコルル(HN=ハンドルネーム)』の手紙であることが分かる。


《ユウ元気にしてるかい?最近会話してないから、心配してメール出してみたよ。まさか死んじゃいないよね?……まさかね。(^^;)
 また週末にでも話しがしたいからOKなら返事が欲しいなァ……じゃあね〜。(^-^)ノ~~
 ナコルルより》(ユウ=俺の使っているHN)

――……と、我が主人は申しておるが、いかがなさるか?――

ポストペットが表情の無い顔で話しかけてくる。

「ハイハイ……死んじゃいないよ……っと!Enter」

文章の欄に適当に返事の言葉を打つと、ポストペットをナコルルの元に帰す。
まぁこんな感じで、のらりくらりと一日をのん気に過ごしている。勉強?そりゃもう……………やるべき時にやっている!(!?)




――――――――――――――――――――――――




そんな俺にも出会いは突然だった。

俺の愛読書であるマンガ。TAITO・ワンの最新刊を買いに駅前に行ったときの事だ。
朝一に書店に行き、家に帰ってじっくり読もうと、ホクホクした気分の俺の目に映ったのは、一人の少女だった。
歳は10歳くらい。ショートカットにしましまのワンピースで華奢な印象を受ける少女だ。
通勤ラッシュの大人達に混じって、更にはホームへ行こうとする流れに乗らず切符売り場でウロウロしていたのも印象に強かったからだろう。

「………あの子ひょっとして切符が買えないのか?」

だとすればまったくもって嘆かわしい!あれだけ人目につく場所であんなに困ってる表情をしているのに、誰も少女に声を掛けないなんて……!
全く……最近の大人は冷たいなぁ。

「切符の買い方が分からないのかい?」
「!?」

ビクっとする少女。うん。予想通りのリアクションだ。

「………ぇ……と……あの…………銀座まで行きたい…の」

もじもじと答える少女。何故に銀座なのかは分からないが、とりあえず丁寧に行き先や、乗り換える駅などを説明する。

「………と、途中で分からなくなった時は、あそこにいる駅員のおじさんに訊くと良いよ」
「……ありがとう。お兄ちゃん」

ペコっとお辞儀をするとテクテクと歩いていく。
可愛いなぁ…………何と言うか健気な印象を受けて………しいて言えば子犬を見る感覚だ。

あんな良い子なら、また会えると良いなぁ…………と言うか平日なのに学校はどうしたんだ?


だが、『また会えると良いなぁ』という願いは、思わぬとこで叶うことになる。




――――――――――――――――――――――――




早朝の話だ。

「あ」
「あっ! あの時の……」

珍しく部屋を片付けようと、ちゃんちゃんこを着たまま一ヶ月間溜まったゴミをゴミ置き場に持って行ったとき。
この前、駅で出会った少女にまた出会う。

「………お兄ちゃん近くに住んでるの?」

話しかけてきたのは少女の方だった。
俺はこの先のアパートの右端の部屋に住んでることを説明すると、少女は驚いて、

「!?……それ、私の部屋の隣り…」
「?」
「私、お兄ちゃんの隣りの部屋に住んでるの………一人で」
「!?」

ハイィ!? この子今何て言った?
隣り? あのボロアパートの? それも一人で? いくら経済大国日本と言えど(関係ない?)こんな少女が一人で暮らすなんて、ここはスラム街か!? 北朝鮮か!? 戦後直後の日本か!?
いや、問題は断じてそんな事ではない!
真に驚くべきは俺があのボロアパートに引っ越して数ヶ月間………マジで全くこの子に会わなかった事だ!?
恐るべし、俺の半ひきこもり生活…………まったく、嘆かわしいことこの上ないわ……

「あの…………大丈夫?」
「ああ…………ちょっと自分の近所付き合いの悪さに自己嫌悪中………それにしても一人で暮らしてるのかぁ……マジ?」
「……うん。色々あって…去年から」

……こんな歳で一人暮らしかぁ……当然自炊も一人でしてるんだろうな〜…………冷食とコンビニ通いの俺にとって、『自炊』の二文字はかなり心に痛いセリフだ。

「偉いなぁ」
「そんな……それしか方法が思い付かないだけだもん…」

少し照れながら応える。しかし、途中でハッとなると、俺に向かって、

「!………ひょっとしてお兄ちゃんはゴハン食べないの?」
「…………パン」
「毎日?」
「パン」

駄目だ……何かこの子と会話すればするほど自分の粗末な生活を目の当たりにしているようで非常にキツイ。

「そう言えば学校っていいの?もう7時半だけど……」
「あっ……大変! 急がなきゃ。じゃあ帰ってきたらお兄ちゃんの分のご飯作ってあげるね」
「はぃ? いやでも、そこまで迷惑かけるわけには―――」
「ううん。この前のお礼もまだだもん。そういえばお兄ちゃん名前は?」
「あ、名前? 俺は北じょ………勇太郎で。表札を見たら分かるよ……」
「私は坂上 舞華(さかがみ まいか)。よろしくね♪」

そう言うと「急がないと遅刻しちゃう」と言いながらアパートに帰っていった。最後まであの子、舞華ちゃんのペースだ。
俺は軽く伸びをすると、

「……………学校かぁ……俺も久々に勉強しようかな」

と、至極まともな考えが浮かんでいた。



――――――――――――――――――――――――




昼食(パンと牛乳………あと涙)を食べ、参考書の残りを片付けようと思ったその時、起動中のパソからアラームが鳴る。
何だと思い、パソに触れようとしたその時、

『こんにちは〜! 皆のアイドル天使! メイル君デ〜ッス!!』
「ポストペット……桜子か………」

桜子。本名、一条 桜(いちじょう さくら)。俺の遠いいとこで、プログラマーの仕事をしている。
で、そのスキルをフルに活かし、全く新しいタイプのポストペット。擬似電子生命体メイルを創り上げた。
見た目は、金髪碧眼。男か女か分からないような小柄な顔立ちに郵便局の帽子。申し訳なさ程度に背中に付けられた小さな羽に、何故か胴回りには巨大なリング。(突然変異で巨大化した天使のワッカらしい)
そいつが画面一杯に『こちら』を見ている。
事前に桜子から説明を得ていないと本当に生きているんじゃないかと思ってしまう。

『聞こえますか〜? むしろ生きてますか〜? 返事してくださいヨ〜?』

ナコルルといい桜子といい、勝手に殺すなよ……まぁ連絡しない俺も悪いんだけどさぁ……
パソの前に座り、キーボードで文章スペースに「とりあえず黙れ」と打ち込む。

『む、むぅ……生きてたんデスね。そうなんですかぁ……………残念!!』

俺をいじめに来たのか?コイツ……

『滅相もありませんよぅ!僕は桜さんからの手紙を届けに来たんですから!(あとオレンジキャンディーをたかりに)』

カッコ内が見えてるぞ……で、手紙って何?
開いてみると、新型のワクチンソフトが多数入っていた。

『「風引くなよ!パソコン君」だそうデス』
「俺に対してじゃないのかよ!?」
『さて、返事はいかがなさいマスか?』

そうだな〜。


《前略。
 ワクチンありがとう。と言うかメイルって無茶苦茶茶目っ気があって良いよな。俺もポストペットが欲しくなったよ!
 ああメイル。可愛い可愛い電子生命体……メイルメイルメイルそんなに可愛いのに何で時々ウィルス拾って来るんだよ!!? お前の所為でパソが2台駄目になったんだぞ!!! どうしてくれるよ!? 弁償してくれないんだろ桜子この野郎!!! 失せろ! イね!! 今度ウィルス持ってきたら、俺が世界中で見つけてきたグロ画像大量に送ってやるから覚悟しとけ!!
 早々》


肩で息をしながら一気に打ってメイルを桜子の元へ返す。相変わらずニコニコした顔だが、メールの内容に少々冷や汗を流していた。ホント良く出来てるプログラムだよ………




――――――――――――――――――――――――




夕方。そろそろ夕食を買いにコンビニへ行く時間だ。
が、今回はどういう訳か、お隣さんの舞華ちゃんが夕食をご馳走してくれるらしい。

「けど何作ってくれるんだろ? 4年生だろ? 作れるもんと言ったら何だ?」

まず思い付いたのは卵焼きだ。卵と塩があれば、俺でも作ることの出来る簡単お手軽料理だ。
だが舞華ちゃんは自炊していると聞く。その場合料理のレパートリーは大幅に増えるはずだ。
味噌汁。肉じゃが。鯖の煮付け。から揚げ。焼肉。ステーキ……流石に後者二つは無理か。
けど米はどうしよう?
うちには米はおろか、炊飯ジャーすら無い。炊飯ジャーは鍋で代用出来るらしいが、肝心の米が無いとな〜……
食料を恵んでもらうという情けない考えは当然無い。歳が九つも離れてる子供に食料を恵んでもらうほど、まだ灰になっちゃいねぇ……

「やっぱ買いに行くしかないのか……米1キロいくらだろ?」

その時、ドアがノックされ、声が聞こえる。

「あの……ご飯作ってきたの………今おなか空いてる?」
「え、もう?」

ドアを開けると両手に大きな寸胴鍋を抱えた舞華ちゃんが立っていた。
寸胴鍋と匂いからして………シチューだ。
シット(くそっ)しまった! その手があったか!? てっきり焼き物かと思っていただけに予想が外れたのは少しショックだったが………そうかぁ……シチューは簡単だもんな〜………やられたぜ舞華ちゃん!

「…………シチュー嫌い?」
「大好物です。パンに合うのが良い!さぁ皆の者泣いて喜べ!コッペパンの用意だ!今夜はご馳走だぞ!」

舞華ちゃんの「あの……ご飯も用意してるけど…」と言う声を無視して、久々のご馳走に「ヒャッホー」とか口ずさんで浮かれまくる俺だった。




――――――――――――――――――――――――




「あぁぁ〜やっぱ喰うべき物は人間の食べ物だよ……あぁ目から涙が止まらない」
「もうっお兄ちゃんたっらオーバーね」

表現がオーバーなのは認めるが、美味いのは事実だ。手作りって素晴らしい!
褒められたことに照れている舞華ちゃんを見て、俺の脳裏にあの疑問がまた浮かんできた。

「………そういえばさぁ。本当に一人で暮らしてんの? 親じゃなくても他に兄弟とか」
「兄弟は居ないの………ママは……もう居なくて………パパは……お仕事が忙しいから」
「仕事!?………じゃあ銀座ってのはひょっとして―――」
「ううん。パパは京都に行ってるの。銀座に行ったのはママのお墓参り。その日は学校を休むことにしてるの」

………腹の立つ話だ。何かって?父親の方さ。仕事と娘のどっちが大切だと思ってるんだ?強盗にでも襲われたらどうするよ!?
まぁ話的によくある(あってたまるか!?)パターンだよな。
食べ終わり、お皿を流しに置いて蛇口を捻って水を出す。俺も片づけくらいはしないとな。

「……でもそれって辛いだろ?」
「ん〜ん。学校に行けば友達も居るし、隣には優しいお兄ちゃんが居るから大丈夫」
「………そうか」

なるべく明るく答える。

「………あのさぁ」
「何? お兄ちゃん」
「できればで良いんだけど、舞華ちゃんの手料理……また作ってくれると嬉しいなぁ………なんて」
「!……ホント!?嬉しい!私頑張って毎日作るね!」
「イヤ、時々で……それにお金も―――」
「大丈夫!私お金はいっぱい持ってるから!」
「え〜………と………(励ますつもりで言ったんだけど………効果覿面過ぎるぞ)」
「じゃあ早速献立考えるから!おやすみなさ〜い!」

寸胴鍋を抱えて帰っていく舞華ちゃん………さて、どうしよう?コレじゃ舞華ちゃんに養ってもらってるみたいじゃないか……得な話ではあるけど。




――――――――――――――――――――――――




と……こんな感じで物語りは幕を上げる。
最初にも言ったが、別にこんな経験したからって地球を救えるわけじゃなければ、日本の経済を回復させられるわけでもないし、パンダの体毛の白と黒の部分を逆にすることも出来ない。
でもさ………結構楽しそうだろ?







え〜こんにちは。今回このサイトで小説を書かせてもらうことになりました。魅カエルと言う者です。
早速話の紹介ですが、主人公である彼は別に何の呪いも受けてません。使命も背負ってません。人外の能力もありません。宝くじも当たったりしません。凡人です。果てしない凡骨人間です。
ストーリーもコレといった世界を巻き込む大事件に遭遇なんて大それたものではなく、ただ普通にのびのびと浪人生活(この時点で生活状況が知れてます・・)を過ごしているもので、その中であった何気ない地味な出来事を紹介するという、壮大なストーリーの小説を読みなれた方々には少々(多々)物足りない作品かもしれません。
ではこの小説の何が面白いのか?作者である自分が説明いたしましょう。

不明!!!(!?)

あくまで『ノリ』と『勢い』で書いた作品なので、こんなものでも「コレ面白い!」と思っていただける方が一人でも居れば、大変ありがたいと思います。m(_ _)m

※この作品およびあとがきの著作権ならびに文責は魅カエル氏にあります。無断による転載等を禁じます。


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