Yu-Mai

第二話 〜牙が折れても吼える犬〜






何で、こんなことになったんだろう?

そこは暗い・・・とても暗い場所。
大企業ビルの地下駐車場。

コンクリートの柱に寄りかかり、怪我をした左腕を押さえ、「ちっ」と舌打ちをする。
敵は一人。だが相当のやり手だ。
おそらく、何十何百もこういうことを経験した戦闘のプロ。

だが俺はどうだ?
強くなったと粋がって、相手も分からない奴に戦いを挑んで、結果がこのざまだ。

勝つか負けるか、生きるか死ぬか、この世界ではそれがルール。

そのとき、暗い地下駐車場から足音が聴こえてきた。


「どうした北条院?出て来いよ、続きをやろうぜ。アレだけ粋がっておいて立派なのは苗字だけかよ?」

「ウルセェ!苗字のことを言うな!」


北条院。この『無駄』に凄い名前は小さい頃からの秘かなトラウマとなっている。
が、ここで怒りに任せて叫んでしまったのが、俺の運の尽きだった。


「みーっけ。探したぜ北条院♪」


ツンツンした黒髪に毛皮の長いマフラーに、ゆったりとした全身黒の服。
黒影 皇也(くろかげ こうや)。この道のプロだ。

柱に向かって走ってきた奴が袖口に仕込んだナイフを投げてくる。
俺は急いで右手に持っていた鉄パイプでガードする。
が、俺の腕で完全に弾くことは出来ず、ナイフは右肩を掠める。


「クッ……」

「おぉ。直撃は免れたか。初めてこの世界に来たわりにはいいモンもってんじゃん」


皇也が袖口からキラキラ光る糸を出す。今度は鋼糸かよ……


一閃


走って逃げた俺の後ろの柱がブツ切りに破壊される。
何とか……何とかコイツを倒す術は無いのか………

手持ちの武器を見てみても、打撃用の鉄パイプにガチャガチャの玉で作った閃光弾。マッチやライターや小石程度もあるにはあるが、ナイフや鋼糸を持ってる奴に比べたら子供の玩具だ。


――オ願イ……モウヤメテ!――


不意に、舞華ちゃんの声が聞こえた気がする。
あの頃は懐かしかった。

何も無い生活だったが、危険も無かった。平穏が一番幸せと、今になってようやく思える。
刺激が欲しいと、ありもしない世界に踏み入れ、今こうして見知らぬヤバイ奴と戦っている。


――……ネエ………キコエナイノ?――

「…………ハ……俺もヤキが回ったな。こんなところに舞華ちゃんが居るわけないのに」


果てしなく続きそうな地下駐車場を走りながら、ボソと呟く。
とにかく逃げよう。捕まっちゃ駄目だ。持ってる武器もレベルも違いすぎる。


「おいおい……それで逃げてるつもりかよ?」

「!?」


気がつけば俺の前方を皇也が歩いていた。
同時に俺の周りがキラキラ光り始める。鋼糸だ……


「お前は駄目だ。よく頑張ったがつまらない。死んで一からやり直して来い」

「……クソ…まだだ!」


一瞬の間。閃光弾を放ち、暗闇の駐車場をマグネシウムの光で覆い尽くす。
皇也が一瞬怯む。その一瞬。その一瞬が俺に勝機を生む。


「終わりなのはお前のほうだ皇也!俺が勝つ!!」


痛む左腕を使い、鉄パイプを振り上げ皇也の頭に振り下ろす。
皇也の方も眩む目で俺を狙い、ナイフを投げようとする。


「オオオオオォ!」

「ウォオオオオ!」

「ねえ!だからヤメテって言ってるでしょお兄ちゃん!!」


世界が………漆黒に染まった。








………というのもアレだ。怒った舞華ちゃんがゲーム機のケーブルをコンセントから引っこ抜いたからだ。


「……ぁああっ!?」

「ああじゃないよ!さっきからずっとご飯だよって言ってるのに」


頬を膨らませてエプロン姿の舞華ちゃんが怒る。
俺は震える手で『ヘッドホン』を外し、ゲームのケーブルに手を伸ばそうとしたとき、


「ダメ!ご飯が先!」

「お……俺の9時間が……」


昨日買ったネットゲーム『ストリートウォー』に速攻でハマり、俺は一時的に廃人と化した。本来この場合リアルワールドに引き戻してくれた舞華ちゃんに感謝するべきなのだが………セーブ無しの9時間の大冒険のダメージは先ほどの死闘の比ではなかった。


「あぁー……この場合はゲームオーバーなのかなぁプロバイダとか大丈夫かなぁ皇也とか「うを!?いきなり固まりやがった!?チャ〜ンス☆」とか笑って―――」

「もう!そんなにゲームがしたいのならもうご飯上げない!」


怒った舞華ちゃんがテーブルから何かを持っていこうとする。
あれは…… 鰤の照り焼き


「スイマセンスイマセン!!申し訳ございませんでした!私が全面的に悪かったのを認めると共に謝罪いたしますので、どうかその動物性タンパク質を持って行かないでください!」


涙ながらにお願いしてようやく舞華ちゃんの機嫌を取り戻すことが出来た。


「そういえばさぁお兄ちゃん。どうして『朝から』ゲームをするの?普通はやっちゃいけないんだよ」

「……『夜から』だから余裕でセーフなんだよ」

「………???………ふぅ〜ん」


味噌汁を啜りながら納得したフリをする舞華ちゃん。
あぁ……俺はこうやって年端も行かない純粋な10代の子供を汚していくのか……(反省)。

味噌汁とご飯と野菜サラダで腹を満たし、ようやく今回のメインディッシュの鰤の照り焼きを見る。
余談になるが、ウチの家には代々奇妙な風習があり、その一つに『高級な物は生で喰え』という格言がある。

高級=鮮度が良い=素材そのものを味わう食べ方が一番うまい=生で喰え……らしい。
ウニも大トロもフルーツも霜降り肉も時には鶏肉すらも刺身にして食わされた記憶がある。
当然ウチで高級と分類されている鰤も、焼いて食した試しがなく、今回が初体験となる。

箸で突いてみる。ホロホロと崩れ落ちる鰤肉。それを照り焼きソースに絡めて口に運ぶ。
醤油と砂糖をつかったっぽい甘辛の味と、鰤本来の『生』では絶対に味わうことの出来ない旨味が口に広がる。


「んー思ったよりはんまい」

「本当。良かった。焼き魚は何度か作ったことがあるけど、他の人に食べてもらうのは初めてだったから」

「いや、なんていうか、本当にありがとう。毎日美味しいものが食べられるのは舞華様のおかげでございます」


それを聞いてニッコリ笑う舞華ちゃん。
彼女はそのまま時計を見て「あっ」と呟くと、


「いけないもうこんな時間。私学校行くから片付けはお願いね」

「んー気をつけて行ってらっしゃい。知らない人について行っちゃダメだよ」

「もっちろん……あ、一つ訊いて良い?」


なんだろ?


「……最近お兄ちゃんの部屋ゲーム多いよね。お金大丈夫なの?」

「!!?」


い……………言えない。この食生活パラサイトによって浮いたお金(しかも仕送り)で最近豪遊しているなんて……


「……まぁね。真の大人ってのは何も無いところからお金を生み出せるのさ」

「へぇ〜……じゃあ行ってきま〜す♪」


ランドセルを背負って(調理器具と一緒に持ってきていたらしい)部屋から出て行く。
俺はそれを見送りながら、鰤の照り焼きを口に運び、真剣に食生活パラサイトから抜け出す術を考えていた。







ユウ>我を癒したまえ。

メイル>身の程を知れ。

【……昼時。AIポストペットのメイルと擬似チャットで会話していたときの話だ。
 まさかAIに「身の程を知れ」と言われるまで堕ちていたとは思わなんだ。俺は怒った。それ以上にヘコんだ。マジヘコみだ】

メイル>何ていうかデスね、僕の主人は桜様であるからして、ユウ様の召使ではないわけデス。というか九つも離れた女の子にパラサイトしている分際でAIである僕にすら「我を癒したまえ」なんて………無い無い無い無い無い……く(_ _;)

ユウ>冗談だよ!お前が普段皆のアイドルとか寝言言ってるから、じゃあ俺もはっちゃけようかなとか思ったんだよ!

メイル>僕がアイドルなのは本当ですよ。ホームページ持ってますし。

ユウ>マジで?AIだろ?(゜゜;)

メイル>そうですよ。

ユウ>………話題変更。良い仕事ないか?

メイル>と言いますと?

ユウ>このままパラサイトを続けてたら人間ダメに……現在ダメ限界ギリギリをコンコルドで飛行してるようなもんなんだが、仕事を見つければ変われそうな気がするんだ。

メイル>………

ユウ>当然早稲田の夢を諦めた訳じゃない!とりあえず努力するきっかけを見つけないと!で、何かない?

お知らせ>ナコルルさんが入室されました。

メイル>あ、こんにちは〜

ユウ>待てコラ。ナコルル、擬似チャットだぞ。勝手に俺のパソにハッキングするな!

ナコルル>こんにちはユウ、メイル。面白そうなことしてたからね。とりあえずセキュリティーを徹底するべきだと思うよ。

メイル>それはそうとナコルル様。先日は2ギガバイトのオレンジキャンディー、ドウモデス。美味しく頂きました♪

ナコルル>それは良かったよ。同じもの良かったらまたデータを送るけど?

ユウ>おいコラ。とりあえず俺の話を聞こう。(-_-;)

メイル>やや、あのデータならすでにコピーをとっているので問題無しデス!(=^^=)

ナコルル>それはそれは……じゃあ今度はもっと趣向を凝らしたものにしよう。

メイル>助かりマス!楽しみデスよ。ナコルル様の飴は良質なので♪

ユウ>飴って……お前データを喰うのか?

ナコルル>それはそうと仕事を探しているんだね?>ユウ

ユウ>あるのか!?(@@;)

ナコルル>僕の『助手』なら一回につき10万払うよ。

ユウ>………( ̄ロ ̄|||)

メイル>………あ、桜様が呼んでいるので僕はこの辺でおいとましマス。デワ!!(ノ><)

お知らせ>メイルさんが退室しました。

ナコルル>どう?多少サイバースキルと度胸が必要だけど……何事もリスクは付き物だしね♪(^_-)-☆

お知らせ>ユウさんが退室しました。



―――――――――――――――――――――――――



……バカな事を言ってしまった。というかあの二人に訊いてまともな仕事を紹介してくるはずが無い!
大急ぎで擬似チャットのデータを消し、思いつく限りのウイルス除去ソフトを使って、ようやくパソの電源を落とす。


「ただいまー。アレ?どうしたのお兄ちゃん」

「……………」


何故か真っ先に俺の部屋に入ってきた舞華ちゃん(理由:調理器具を持ち帰る為)の挨拶を無視し、考え事に耽る。

今俺が浪人でプーで親から仕送りを貰っている、社会的に何の利益も生み出さないヤバイ存在であることは認める。
これ以上ダラダラした生活は自分自身が許さない。否、許されて良い筈が無い!!


「………舞華ちゃん」

「な〜に?」


いつになく真剣な表情の俺に、若干たじろく舞華ちゃん。
俺は深呼吸をし、これからお互いに死刑宣告とも言える言葉を放つ。


「明日……イヤ、今から料理は持ってこなくていい」

「!?」


口元に手を当て『ウソでしょ……私達付き合うって約束したじゃない!?』みたいな悲痛な表情になる舞華ちゃん。
イヤね、別に料理が嫌だとかじゃなくて、このままやってると俺の人としてのスキルが落ちるから社会的に立ち直るために自炊しつつ、自立をするという頑張りの気持ちを認めて欲しいわけよ………って……聞いてないよね。


「……もう…………私の料理はいらないの?」


予想通りの言葉を発しつつ、俺は「そんなことはないよ」とか「俺も食べたいのは山々なんだけど事情が……」とか言うのがメンドかった俺は話の道筋大半をハショッてこう言った。


「全ては自分自身の為!!ゴメン!」

「!?」


頬から光るものを流しながら部屋を出て行く舞華ちゃん。ゴメン。事情は後で必ず話す! 兎に角何でも良いからバイトを探そう!
そう思いつつも、「あーもう4時か………あと一食はご馳走になっても良かったかなぁ……」と、生温い考えに浸ってしまう俺だった。







今回のあとがき まず更新が遅れてしまったことに、管理人である歩けさん並びに、ご迷惑をかけた多くの方にお詫びいたします。
物書きにとって更新の遅れとは致命的にいけない事なので(まして打ち切りなどもってのほか!)、早い更新を目指します。
して、書いていて思ったことですが、何だろう?この胸の底でチクチク突き刺さるような感覚は………果たしてこれを読んで凍てついた心が溶けるのであろうか・・・・・・否(反語)!何か、何か修復不可な何かが自分の小説を襲い始めている! 果たしてジャンル不明のこの話が行き着く先とは一体・・・(汗)デハ!


※この作品およびあとがきの著作権ならびに文責は魅カエル氏にあります。無断による転載等を禁じます。


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