Yu-Mai

第三話 〜「温めますか?」「や、結構です」〜





「温めますか?」
「や、結構です」

ヘタをすると俺自身の存在否定にも聞こえてきそうな会社帰りのOLの一言をサラリと受け流し、ビニール袋詰めした弁当とお釣りを渡し、ありがとうございましたと営業スマイルで帰す。


俺が選んだバイト先は夜間のコンビニ店員だ。工事現場のバイトも考えたが、コンビニの夜間バイトの場合、『期限切れの弁当を食すことが出来る』『別に学校に通っている訳じゃないから昼夜逆転生活になっても問題なし。つーか通常より給料が多い』『夜中なので人が少ない=楽』などなどの特権があった為、コッチにした。


「どう?仕事には慣れた?」
「アキさん。ええ、ぼちぼち」

レジ打ちと商品の棚上げと掃除。正直な話、慣れる慣れないの問題ではない。
それでも話を合わせたのは、女性先輩のアキさんが美人だからだ。
年上の女性。俺と同じくらいの長身にサラサラと長い黒髪。スレンダーな身体に整った綺麗な顔。


こんな令嬢と呼ばれてもおかしくない人がコンビニの夜間バイトなんて、一体この人の身に何が起こったんだろうか・・・いや、むしろ『どこで踏み違えたんだろう(暴言)』?


「どうかした?なんなら人居ないから奥で休んでてもいいよ」
「大丈夫ですよ……それにしても、世の中には不思議なこともあるもんですよね〜」
「?」

レジに手を置き、おでん鍋に顔を近づける。何となく蒸気が良い。

「いや〜ね、こんな俺にも慕ってくれる人が一人や二人は居るんですよ。見返りもなく、毎日毎日・・・供物の如く、俺に食料を恵んでくれる聖女がいるんですよ」
「へぇ〜。北条院君、彼女いたんだ〜」
「まさか?話のくだりを考えてくださいよ。一方的なギブアンドテイク。俺はそんなパラサイトしてる自分がイヤで、彼女を拒んでこのバイトを始めたんです」
「………」

特に何を言うでもなく下を向くアキさん。彼女の事だ。多分こんなバイトを選ぶからには何か相当な理由があるはずだ。ハッキリ言って俺の生温い話は、少なからずアキさんの心を逆なでしただろう。

「えっと……私、ゴミ出してくるね。レジよろしく」
「分かりました」

そう言われ、大して広くない店内に一人、ぽつねんと残される。

初任給が手に入ったら何をしようか?
一応、舞華ちゃんには詫びと同時に恩返しがしたい。
何か買ってあげようか?それとも俺が料理を作るか?熊か?熊のぬいぐるみか?実物の三分の一の特大サイズのツキノワグマか?蜂蜜の香りのする食えるやつか?全身ハニーシロップの染込んだスポンジの………止めよう。変な方向に脱線してきた。

チラと時計を見るともう夜中の3時だ。今日もいつものように何事も無く朝日を拝めるかなと、思ったそのときのことである。

コンビニのドアの開く電子音が鳴り、一人の客が入ってくる。

「ぁ、いらっしゃいま……せ………」
「これください」

舞華ちゃんだった……AM3時だよ?眠くないのか?何故100円ガムを持っている?それを買うためだけにこんな真夜中のお世辞にも家から近くないこのコンビニに来たのか?

俺はとりあえず脳内を巡る考えを一旦中止し、レジにつく。
舞華ちゃんはとくに表情を見せることなく、ガムと百円をレジに置き、あたりをキョロキョロ眺める。

「ガムが一個で百円丁度お預かりします。ありがとうございましたー」
「………『暖めますか』は?」
「……………はぃ?」
「ふつう物を買ったら『暖めますか』っていうんでしょ?」

……………………違う何かが違う俺の仕事の経験上(浅いが)暖めるのはあくまで弁当や惣菜とかだ。彼女はコンビニに来るのは初めてなのだろうか?
………まぁ本人がそう言うんだからとりあえずは言っておくか。

「あ、暖めますか?」「結構です」

即答。だろうね。

袋に入れられたガムを受け取っても、舞華ちゃんはキョロキョロしたままで店を出ようとしない。俺がどう返答したらいいものだろうと思っていると、

「………分かってない」
「と、言いますと?」
「……だって………こんな真夜中に………その、私みたいな美少女に独りで帰れっていうの?お兄ちゃん」


(………『美少女』?『微少女』の間違いでは?)


と、一通り心の底で爆笑したところで、舞華ちゃんを安全に家に送る為(余談だが、この辺は本当に物騒な変質者がいるらしい)店長さんに訳を言って早めにあがらせてもらうことにした。







「お〜明るくなってきた」
「………」
「何かアレだね。ここまで明るくなってきても星ってのはちゃんと見えるわけで、ホラあれなんかオリオン座だよ。過去の先人ってのは、あの潰れた空き缶みたいな形のをよくまぁ人の形に想像できたモンだよね。人魚の正体がジュゴンと見間違えたりとか、あんなぶっとい体つきの水中哺乳類を絶世の美女(上半身だけ)と見間違えるなんて妄想、想像?まぁ古代人は色々エライ!」
「………」

朝靄の広がる薄明の道路を、俺と舞華ちゃんが歩く。
俺の右手に持ったビニール袋には、今日の朝食の弁当と紙パックのコーヒー牛乳。それと舞華ちゃんが購入した100円ガムも入っている。

まぁそんな説明は誰も望んじゃいないとして、

「………」

この状況はいかんともしがたい。
やはり子供ながらに食事を断った事を怒っているのだろうか?酔っ払い曰く「俺の注いだ酒が飲めねぇってのかよゴラァ!」みたいに。

「………お兄ちゃん」
「はい。何でしょう?」

俯いたまま歩く舞華ちゃんがようやく呟く。

「お兄ちゃんは……私の―――」


そこまで聞いたところで俺の右ポケットの中にある携帯が、『基本的に1コールで』と着声で俺に呼びかける。
こんな時間にいったい誰だと思って画面を見ると表示が『桜子』になっている。

「あ、ちょっとごめんね舞華ちゃん。ハイもしもし?」
『おはようございマァァァァッス!!皆のアイドルメイル君でっス!!』
「……………は?」
『イヤ、「は?」とか言われても僕が電話を掛けられるくらい進化したんデスよ。凄いっしょ!?』
「…………あのさぁ、いま取り込んでるんだよね。切って良い?」
『あぁ〜そうなんですか……………………だとしたら、100%嫌がらせするでしょうねぇ…』
「………」

第一印象から思っていたことだが、コイツ最悪だ。
大体何故にプログラムが携帯に?ナコルルじゃあるまいし、いつから電話回線にハッキングできるようになった?

『僕が天使だからデス!!』
「………」
『というのは勿論冗談でして、本当は実験でPCのスピーカーに桜様の携帯をくっ付けて貰っただけなんデスよ。ちなみに彼女は机に突っ伏してぐっすりと爆睡中デス』
「時間が時間だからな。アイツ朝強くないだろ」
『しかしドゥーデスカ!? 僕の声! 外に出ながら声チャットの出来るこの爽快感! 昭和の電話交換係を思い出しますね!』
「あぁ・・・でなんだよ? バイトはもう良いって言ったろ?」
『フェッフェッフェッ……ぢつは年端も行かない少女を連れまわすローニン激ロリ男に耳寄りな情報が―――…………あああぁ切らないで切らないで!電源落とさないでくださいよぅ!』

コイツ俺の行動が見えてるのか?何にしろコイツの激ロリ男発言は、俺のナイーブな精神をアイスピックでグサグサと刺していった。俺にリアルでそんな危険な属性は無え!(多分…)

「お兄ちゃん。誰と話してるの?」
「知り合いの変人………天使だってさ」
「本当!?私もお話したい!」

急に舞華ちゃんが食いついてきた。この年代はそういうもんなのか?
別に減るもんじゃないし、アイツもそれなりに礼儀は知ってそうだから(無礼なのは俺にだけ)多分大丈夫だろうと思い、舞華ちゃんに携帯を渡す。

「もしもし天使さん!? 私、坂上 舞華! そう………代わってもらったの。うん…………うん………………………そうなんだ。ワープしてきた所がパソコンの中なんだー。 え?北条院のお兄ちゃん? ………うん…………うん……………別になにもされてないよ? ………うんホント……………………ホントだってば! ……………ぇ?………ウソ……そ、そんなことが出来るの!? ……………凄〜ぃ…………うん…………じゃあ今度試してみるね。 ハイお兄ちゃん」

舞華ちゃんから携帯を受け取る。

「メイル。 お前舞華ちゃんに何言った?」
『僕の出生の秘密とユウ様のまぁいろいろとぉ………』

あ〜後半部分に力が入ってない。言う気が完全にゼロの状態だ。

「……で?さっき話そうとした耳寄り情報って?」
『アー忘れるトコでしたヨ。新潟の某所で旅館の割引ペアチケットを桜様が手に入れたらしいんデスよ。でも彼女ああいう人でしょ。一緒に行く人が居ないからいっそユウ様に差し上げて舞華様と旅館行って温泉入って食事して一線越えて警察沙汰になってコイ―――』

慣れた手つきで電源を切る。
でも旅行か〜…………悪くないな。

「ねぇ舞華ちゃん」
「………何?」

また暗い雰囲気に戻った舞華ちゃんが答える。

「もし俺のバイト代が入ったら、どこか簡単なところに行かない?動物園行ってパンダ見たり、遊園地行ってジェットコースター乗ったり……今までご馳走になったお礼にさ」
「…………雪」
「ゆき?」
「だったら私、雪が見たい。お兄ちゃんと雪が見たい」



【(読者に)特に説明する必要が無いと思ったから言わなかっただけだけど、今8月下旬です。勇太郎が真夏にもかかわらず、ちゃんちゃんこを羽織っているのは、単純に苦学生はこういうものという彼の『強烈な思い込み』】



………何か変な空間が俺の脳裏に紛れ込んできたような気がするが、雪かぁ………どうしようか……北海道?新潟?富士山のてっぺんにならあることはあるけど、観光とか言うレベルじゃない(普通の水が自販機で売られてるし…)。うん。とりあえず北ってことで『北陸』を目指そう。

「よし。北陸に行こう!」
「ぅん……………………………ふぇ…」
「!」

いきなり舞華ちゃんが両手で顔を隠して泣き始める。狼狽する俺。

「え?どどど、どうしたの!? 俺なんかひどいこと言った?」
「ちがうぅ……ちがうのぉ………私……ずっとお兄ちゃんに嫌われたと思って………ふぇぇ〜………」

………考えてみれば当然か。あんな全面拒否な言い方すれば舞華ちゃんがこう思うのも無理はない……バカ俺……何でこんな子供を苦しませるような真似したんだ……!?

「…ごめん……俺も努力するきっかけが欲しかったからさ………なんて言うか………あの時はあんな言い方しかできなくてゴメン!!」
「いいよぉ………お兄ちゃんが…私のこと嫌いじゃないの…分かって嬉しいから……」

そう言いながらも泣き続ける舞華ちゃん。

こりゃ相当気合入れて良い所に連れて行かないとな……


空は明るみ、朝日が見え始める。


泣きながらも『嬉しい』と呟きながら歩く舞華ちゃん。


その手を掴んで家へ向かう俺。




その光景を誤解され、早朝の巡回をしていた警察官に職務質問をされた事が、俺の最近のトラウマ…… (T△T)(号泣





今回のあとがき 長く・・・辛い戦いだった・・人は誰しも、一生に一度は、命を懸けて戦わなくてはならないときがある・・・・(らしいよ)
ところでこの話は月間ですか?と自分に言いたいほどに遅い更新の本作ですが、話的にはあと二、三話くらいのボリュームになると思います。
ちゃんと終わりを見据えて書いているのでどうぞご安心ください。デワ!



※この作品およびあとがきの著作権ならびに文責は魅カエル氏にあります。無断による転載等を禁じます。


<第二話へ  ▽小説トップへ