SILENT EYE
第二話 <スローター・ハウス>
彼女の名前は、フィー・スカーレットフォンというらしい。
珍しい姓だ。どこの出身だろうか。聞きたかったが、どうにも話しかけにくい。
特にプライベートなことは聞くと地雷に触れそうな気がした。
アングラ世界というのは、得てしてそういうものだ。
彼女はいつも黒い服を着ていて、それに両目を覆う眼帯は絶対に外さない。寝るときも、多分シャワーを浴びるときも外さないのだろう。
のぞいた訳じゃないが。
だからあだ名は、沈黙の眼、サイレント・アイという。
無口で無愛想だが、まだ若い。20前後じゃないだろうか。
かたやダンテは、見かけこそ近づきがたいものの、とりあえずフィーよりは話しやすい奴だった。時たま交えるジョークは、なかなかセンスが良かった。
俺が彼らに加わるとき、ダンテが教えてくれたことは二つ。
足手まといは見捨てること。
詮索屋は早死にすること。
「まぁ、あとは楽しむことだな。退屈してたんだろ?」
きついバーボン(だが見るからに安そうだ)をロックであおりながら、ダンテは笑った。
廃墟となった元安モーテルらしき建物が、彼らの仮住まいだった。
何でも、本宅は東海岸にあるらしい。
「デビル・ネバー・クライ」という名の便利屋で、それなりに名は売れてるとのことだ。
「で?そんな便利屋が、なんだってロスなんぞをうろついてたんだ?」
俺の問いに、ダンテはにやりと笑って、
「悪魔狩りだ。」
そう答えた。
普段なら冗談として一笑に付すところだが、なにぶん俺もあの人形を見てしまっている。
今では、あれは実はロボットだった、なんて言われた方が笑ってしまうかも知れない。
それほどまでに、あの時の怖気は本物だった。
「彼女は、何でも悪魔対策を専門とする組織に身を置いているらしい。それで、今度このロスに、どでかい悪魔が現れるって情報を持って、俺を誘いに来たってわけだ。」
「それだけか?」
「それだけだ。」
あまりといえばあんまりな依頼内容だ。内容に具体性がない上に、依頼人が信用できる理由が全くない。俺だったらその手の依頼は絶対にパスだ。
リスクばかりで、下手をすれば命を落としかねない。
ま、今回ばかりは俺もその不利益な仕事に首をつっこんでしまったのだから、他人のことをどうこう言う筋合いはないが。
それでも、一言いっておきたかった。
「あんた、クレイジーだぜ。」
「まったくね。」
背後から突然浴びせられたフィーの氷水のような声に、ダンテは飄々と応じた。
「よう、シャワーは終わったかい?お姫様?」
それを平気で無視し、彼女は俺の方へ来ると、手を差し出した。
「なに?」
「あなたの拳銃。あれじゃらちがあかないから、少しいじる。」
なるほど。確かにあれだけたくさんの敵一匹ずつにシリンダー内の全弾をたたき込んでいたんじゃぁ、命がいくらあってもたりない。
それに、ベンチレイテッドリブも、銃身共々ひどい曲がりようだ。新しいものを買う気もないし、修理が必要だと思っていたところだった。
俺は腰のホルスターから、軽く二回転させて相棒を取り出す。
ふん、と鼻を鳴らして、彼女はそれを受け取った。
「これだけ?」
俺が首肯すると、次の瞬間にはまるで手品のように彼女の手にはナイフが握られ、柄は俺に差し出されていた。
「ナイフぐらいは使えるようになっておいて。」
そう言うとフィーは踵を返し、あっけにとられた俺を残して、黒髪を翻しながら用意された自室へと消えていった。
俺が視線を送ると、ダンテは首をすくめた。
◆
「屠畜場?」
「そう、それが今回の目的地だ。」
ごつい軍用ハマーのハンドルを握るダンテが答えた。
「といってもブタが死ぬのを見に行くわけじゃねぇ。そう言う名前のダンスホールだ。」
それを聞いて俺はほっとした。
屠畜場なんてどれだけひまでも行くもんじゃない。
あのにおいは服だけでなく皮膚にまで染みつきそうな気がする。
行ったことはないが。
俺・フィー・ダンテの3人は、今そのホールに向かってやたら目立つ迷彩色のハマーをとばしている。
何でも軍の払い下げ品らしい。こいつのタイヤにはクウェートの土がついてるといっていたが、ほんとかどうか。
ダンテによると、今夜そこで『召還』なるものが行われるらしい。
「そもそも悪魔なんてもんは、いきなりポンと地上に出てこれるもんじゃねぇ。
まず一つには、悪魔には地上での精神体の拠り所となるいわゆる『拠り代』が必要だ。すっ裸で街を歩くとタイホされちまうからな。
それにもう一つ、地上に出てきて人間に使役されるのに対して、見返りを求める奴が居る。その見返りを用意して、悪魔と契約を交わすのが『召還』。そう解釈してる。」
そう説明するダンテは実に楽しそうだ。
何かいいことでもあったのだろうか。
それとも、これから起こるであろう悪魔との戦闘に血を沸き立たせているのだろうか。
対して助手席に座るフィーは、むっつりと沈黙を保っている。
眼帯と帽子で顔が見えないので、一見すると起きているかどうかさえ分からない。
しかしその身体からは、実は常に警戒の糸が油断なく張られている気配が感じられる。
それは彼女の意図的な威嚇かも知れないし、
或いは生まれついた体質なのかも知れなかった。
どちらにしろ、誰も自分に近づけない、そう言う意志がありありと感じ取れた。
俺はため息をついた。
静かな夜だった。
そこは、見るからにごちゃついた路地の半地下にあった。
「スローター・ハウス(屠畜場)」
ドアの上の看板には、汚い字でそう記されていた。
壁一面に、これでもかと言うほど下品な落書きが書き連ねてあった。
「さて、ダンスの準備はいいかな? 諸君。」
ダンテが俺達を顧みる。
俺がうなずくと、ダンテは取っ手に手をかけた…
ドアが開いたとたん、まるで物質となったような、
巨大な音と人いきれの奔流に、俺は押し戻されそうになった。
ズン、ズン、ズン
と、内蔵を抉り、かき回すかのような、暴力的なまでのベースに合わせ、
若者達は踊り狂い、DJはがなり立てる。
イエスを縛り上げろ
十字架を背負え
奴への槍には俺の糞を塗りつけろ
誰もが自分の世界に陶酔し、
誰もが唯肉体の命じるままに笑い、叫び、踊り狂う。
俺達は、そのまっただ中で、まるで太平洋をゆく筏のごとく孤立していた。
「すごいな。」
俺はそれだけ言うのがやっとだった。
それでも、俺の呟きがこの騒音の中でいったい誰に聞こえたものか。
「あれ見て」
フィーの指さすままに、上を見る。
「ほう。」
ダンテが口元をゆがめる。
そこにあったのは、仮面。
壁一面を覆うかのようなおびただしい数の、禍々しい仮面がかけられていた。
「奴ら、『シン』を喚ぶ気だ。」
ダンテが呟く。
「シン?」
「死神よ。」
フィーの解説(?)に、ダンテが首肯する。
「正確には、死神のようなカッコの悪魔だ。仮面を拠り代としてこの世にやってくる、低級悪魔の一種だな。」
そうか、だから仮面…
しかし、この数の仮面がすべて悪魔になったとしたら……、二人はともかく、俺はヤバいかも知れない。
そんな俺の表情の変化を見て取ったのか、
「下を見てみな。」
ダンテが指さす方、人の足で埋まった床には、だがかすかに、
緋色のラインが見える。
「あれは…」
「召還陣だ。シンってのはな、召還されるとき、大量の人の血液を要求するんだ。
それをあの陣の中に注ぎ込むわけだが…、その量は半端じゃねぇ。
とてもじゃないが、あんな大量のシンを召還するだけの血液なんざ、手にはいるわ、け、が・・・」
ダンテが、俺の後ろを見て凍り付く。
なんだろう。
振り返った俺が見たのは、吹き上がる、
血。
「なっ…!こいつら、人を殺しやがった!ダンスのノリで!!」
ちぎれた腕らしきものを持って馬鹿笑いする若者が見える。
「おいダンテ、さっさと出よう、ここは…」
あわてる俺を後目に、ダンテはさっき人が殺されたあたりを、じっと見つめていた。
「ダンテ?」
「見ろ。」
そう言われて俺が目を向けた先にあったのは、
真っ赤な血を流しながら、笑って右手をくっつけている、若い男の姿。
ギリ…
ダンテが奥歯をかみしめた。
そのうち、あちらこちらから血しぶきが上がり始める。
ダンテの手が、背中の大剣へとのびていく。
フィーが、筒からベネリを引っ張り出す。
「これは…」
「ステン、見てろ。」
ザン!
突然、ダンテが剣を一閃した。
いつの間にか背後には、ナイフを持った若者(かどうか、もはや定かではなかったが)が忍び寄っていた。
当然、まっぷたつになったその切り口からは、バケツをひっくり返したかのごとく血液が噴き出す。
が、その血液の本来の持ち主達、自然の大前提に従い当然死んだと思われた若者達は、
笑っていた。
ぎゃはははと、いかにも頭の悪そうな、生きていたときと全く変わらないであろう声で。
寒気がした。
死者の笑みとは、こうもおぞましいものなのか。
さらにそいつらは、もぞもぞと芋虫のように動き回ったかと思うと、すぐに身体をくっつけ、元に戻ってしまった。
「こういう事だ。確かに、これなら血液に不自由はしないわな。」
ダンテが苦々しげに吐き捨てる。
「どうするんだ。奴ら今ので殺気づいたぞ。」
確かに、こちらを見る奴らの視線が、さっきまでと違う。
異端者を追いつめる、獣の視線。
俺の問いに答えたのは、フィー。
「コマギレにすればいい。」
次の瞬間には、俺達はもう動き出していた。
俺が腰の後ろを探ると、確かに感じる、相棒のグリップ。
フィーによる改造で、俺の大蛇はもはや腰の普通のホルスターには収まらなくなっていた。
2インチも追加されたバレル長。
強装弾の重い反動に耐えるためにつけられたアンダーラグ。
後方支援に使えるように、上部につけられた1.5倍のスコープ。
強烈なマズルフラッシュに眼を灼かれないようにつけられた、マズル・ハイダー。
もはやそれは、リボルバーと言うよりは戦車砲だった。
そいつを抜き出し、電光石火の勢いで、まず3発。
周囲の敵を遠ざけると、急いで物陰に飛び込んだ。
俺の仕事は、後方支援。
戦闘力の低い俺に対する、ダンテのささやかな気遣いだった。
そのためのスコープであり、そのための2インチだった。
遮蔽物にしている植木鉢に、しっかりと両手を据える。
こちらへ向かってくる2匹に、それぞれ4発目、5発目をくれてやる。
さらに、顔面を失って倒れた敵に、6発目。
素早く親指を走らせ、ストッパーを外す。
弾倉をスイングアウト、イジェクションロッドを押し込み、薬莢を地面に落とす。
ふと目を上げると、ダンテ達の様子をかいま見ることができた。
彼らは圧倒的な戦闘能力で、おそらくは毎秒あたり俺の三倍の戦果をたたき出していた。
ダンテは走っていた。
一陣の赤い風となって、目の前に立ちふさがる敵を、片っ端からたたき斬っていた。
常人の俺には、ただ赤と銀の光がまたたき、
ものすごい早さで突き進んでいるようにしか見えなかった。
泥臭い表現をするなら、さながら芝刈り機といったところか。
刈られたあとには、ただ真っ赤な血だまりと、さっきのフィーの提案通り、
コマギレにされた肉片が転がっているだけだった。
対するフィーは、こちらは一歩も動いていない。
いや、さぼっているわけではない。
彼女の右手にはおなじみのベネリが、
左手にはルガー・スーパーレッドホーク――「ズヴェルボイ」、猛獣殺しという銘が刻まれた、彼女の愛銃らしい。――が握られ、絶えず弾丸が吐き出されていた。
遠くの敵は左手のズヴェルボイが、近づいてきたものにはベネリの散弾が容赦なく牙をむいた。
身体の中心線を軸に、全く動かずに回転のみで敵を正確に打ち抜く。
視界は黒の眼帯で覆われている。
それなのに、いや、それだからこそなのか、彼女の射撃は正確で、容赦がなかった。
フィーを中心とする半径2メートルには誰も近づけない。
まさにそこはフィーの「絶対領域」だった。
(だが…)
俺はクイックローダーで44マグナム弾をアナコンダに装填しながら思う。
その戦い方は、素人目に見ても一目瞭然の決定的な弱点があった。
弾切れである。
この戦い方では、自分は必然的に敵の包囲を受けてしまう。
そうなれば、弾数に制限のある銃という武器は、重大な欠点ともなりうる。
時間を稼げば、敵の勝ち。
しかも、今回の戦闘は死なない敵が相手なのだ。
ダンテのスタミナだって、無限というわけには行かないだろう。
このままでは、どうあっても負ける。
今の状況で俺にできることがあるとすれば、この状況を打開すること。
彼らが持ちこたえている間に、何とかしなければ。
◆
このホールに入ったときには、この間のマリオネットに感じたような焼け付くような鬼気は感じなかった。
試しに、フィーにもらったナイフで自分の指を切ってみる。
すると、血は出たが痛みはなく、傷口もどんどんふさがっていった。
ずいぶんと気味の悪い光景だ。
だが、これで分かった。
つまり、人間を今回のような「アンデッド」にするために、特別な前準備は必要ないと言うことだ。
と、言うことは、つまりこいつらは普通の人間で、どこかにこいつらをいわば「アンデッド」にしている仕掛けがあるって事だろう。
そいつをつぶせれば。
考えろ、考えろ……
二人は今戦闘中。仕掛けにまで頭を回す暇はないに違いない。
俺がやるしかない。
このホールのなかは今こんな感じだが、外にいたホームレス達にはこんな風に眼に狂気を宿した奴は居なかった。
ジャンキーっぽい奴はいっぱい居たけど。
ということは、何らかの方法でこのホール内にいる人間だけを不死身にしたって事か。
だが…本当にそんな方法があるのか?
くそ……
こんなモンのからくりも分からないようじゃ、探偵失格だ。
現に今は人二人の命を預かっている。
あきらめるな、考えろ…
ホールのなかだけって事は、
何か、ホールのなかだけですっ!てな感じで場所を指定できる方法があるわけだ。
指定している方法がなにかは分からないが、
このホール内にこの事態の元凶がなければ、それはもう俺達の終わりを意味している。俺にできることはない。
よって、ここはホールの中にそれがあると仮定しよう。
だとすればなんだ?
思い出せ、ここに来るときに見たもの。
ヒト、落書き、仮面……
地獄よりも低いここから
神の足をふんづかまえろ
俺は死神を屠り生きる
天使をファックしろ
ロザリオを踏みつけろ
吸血鬼を招き入れろ
凶悪なラップが、俺の脳をかき混ぜる。
ああもう!
集中できやしねぇ!!
ん?…まてよ……
…そういえば。
はたと気づき、
俺はアナコンダを握り直した。
俺達がここに来たとき、一つ感じたことがあった。
しっかりと、支えとなっている植木鉢の安定を確認する。
『静かな夜だった。』
『静かな』だと?
冗談じゃねぇ。こんな大音量のロックが、どうして外に聞こえない?
スコープをのぞく。その十字線の中央に、かすかな人影。
この世の中には、言霊、なるものが存在すると言われている。
言葉一つ一つの組み合わせで、それらに魔力を持たせるという。お経なんかがそうだ。
もしそれが、ここで行われているとすれば。
過剰な防音処置。
ダンスホールを召還場所に選んだ理由。
それらが俺に告げること。
つながった。
俺の十字線が、DJの脳天を捉えた。
しっかり狙うと、気づくことがある。
(奴ら…護ってやがる。)
明らかに、その一帯だけ敵の密集度が高い。
弱点を心得るだけの知恵は持っていると言うことか。
(俺が気づいたことが分かったら…襲ってくるだろうなぁ……)
つまり、ハズしたら終わり。
そもそも、俺の推理だってひょっとしたら全くの見当違いかも知れない。
俺の中に、恐怖と、それにもう一つ、よく知らない感情がこみ上げてくる。
ギリギリの緊張感。
生と死の狭間の、不安定な快感。
ヒトは、死にかけて初めて、生きていることの感慨を味わえるという。
これが、そうなのかな。
もしこれが、生きている感慨と言うものなら、悪くない。
むしろ、癖になりそうだ。
テンションが上がり、視界がどんどん赤く染まっていく。
そして、意識は鮮明に、腕のふるえは消えていく。
赤い、赤い荒野のなかで、世界は俺とDJ、二人きりになった。
アナコンダが鎌首をもたげ、
飛びかかった。
ゴォン!!!
とんでもない衝撃に、俺の腕は跳ね上がる。
だが、俺には分かった。当たると。
アナコンダの毒牙は、一瞬で亡者達の間を駆け抜け、ダンテの鼻先を飛び去り、敵の防御を軽くすり抜けると、
DJへと、突き刺さった。
ドス!という鈍い音とともに、DJが倒れ、曲が止んでいく。
死して尚強制的に生かされていた人々は、その魔法が切れ、砂となっていった。
俺は脱力し、座り込んだ。
ああ、きっとあの砂はタンパク質と鉄分たっぷりだろうなぁ…
などと、意味のない考えが頭を回る。
やった。
「は、ははは……」
自然に笑みがこぼれる。
俺は勝ったんだ!
ダンテと、フィーがこっちへ歩いてくる。
ハイタッチの一つでもと思い、俺が立ち上がった、そのときだった。
あまりに唐突に、足下の召還陣が輝きだした。
その紅の光が、次々に壁面の仮面に、炎をともしてゆく。
まさかこれは…
ダンテがしれっとした顔で
「召還が始まったな。きっとあのDJの血が、トリガーになってたんだろう。」
なんて事を言う。
「そ、そんな……」
せっかく死体は倒したのに、ここでシンに出てこられたら…
ダンテを見る。
と、そこには余裕の笑み。
ひょっとして、何か策があるのか?
「フィー! 弾はあとどれくらいだ。」
ダンテが訊く。
「チューブに3、あとは予備のスラグが5発、ズヴェルボイに3発…」
「いいぞ、壁を背にして、下がっとけ。あとは俺がやる。」
ダンテはそう言うと、俺の前に仁王立ちになる。
「なぁダンテ、いくら何でも…」
「時にステン、神はいると思うか?」
俺の提案を無視して、ダンテが問う。
「神? なんでそんなこと、」
「いいから。どう思うよ?」
どうやら答えないといけないらしい。
壁から死神が一匹、滑り出す。
「…見たこともないものを、信じろって言われてもなぁ…」
ダンテはそれを聞いて、ふ、と笑う
「じゃあ、質問を変えよう。悪魔に太刀打ちできる存在ってのは、なんだと思う?」
「それは、神…」
「そう、だが、お前はカミサマは居ないと言ったろ。
それなら、俺達人間に望みはないのか?
いや、あと一つだけ、悪魔に太刀打ちできる存在がある。そうだろう?」
ダンテの身体から、剣から、突如としてあふれ出す、鬼気。
嵐のようなそれは、この間のマリオネットとは、別格の大きさだった。
「ダンテ、お前は…」
「それは、悪魔だ。」
ドン! という空気の振動とともに、ダンテの背に現れたものは、
漆黒の、翼だった。
「見せてやるよ、ステン。半魔の悪魔狩人、スパーダの息子、ダンテの力…」
彼の姿は、もはや、ヒトではなかった。
それが羽ばたけば、大気は震え、地は戦く。
その咆吼は、雷となって空間を、死神を、焦がし、切り裂く。
ズドォォォォォン!!
強烈な、青い雷の奔流。
一見無秩序であまりに強力なその雷撃は、しかしその実、ピンポイントで死神の仮面を狙っている。
大仰な死神の断末魔が、真っ青な阿鼻叫喚を演出する。
まるですすに汚れた雪のように、死神のマントがこれでもかと降ってくる。
俺は唖然とするしかなかった。
やはり、奴は人間じゃなかった。
…三分、かかっただろうか。
その上空に、もう死神はいなかった
音さえも消えたその空間に、
いるのは、いまだ凶悪なオーラを放つ、漆黒の悪魔が、一匹。
戦闘は、終わった。
今度こそ、俺たちの勝ちだった。
「…さすがだわ、”ハンター”ダンテ?」
突如かけられた声に、その悪魔は振り向く。
そこにいたのは、まさに色気が服を着て歩いているような、そんな美女だった。
真っ赤なスーツドレスに、赤みがかかった茶髪。
「はじめまして、ミスター・ダンテ。
といっても、私はもうあなたのことはほとんど知ってる。
伝説の魔剣士、スパーダの息子にして、あのムンドゥスさえ退けるほどの凄腕デビル・ハンター…」
「いやな臭いがするな…」
その言葉とともに、ダンテの体から発せられる、幾筋もの雷撃。
それらは間違いなく美女のほうへと飛び、彼女を黒焦げにするかに見えた。
が。
彼女はそのほおに微笑を刻む。
余裕のその笑みとともに、上げられた右手からほとばしった真紅の電撃が、
青い雷撃とぶつかり合って、相殺される。
ドシュ!という鋭い音と、目もくらむような閃光。
あまりに強烈なその光に、俺達は視力を奪われた。
「フ、フフフフ…、面白いわね、今回の“ハンター”は。」
白い閃光の中に、美女の声がこだまする。
「また、会いましょう…」
あたりが闇を取り戻し、目がなれたときには、そこにはもう、彼女はいなかった。
第三話に続く
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